お客様にとってもっとも関心のある知財や独禁法・金融・労使関係などの最新の話題をお届けします。
御社の法務・経営戦略にお役立てください。
-
米国最高裁判所がAmerican Pipe判決における“時効期間停止”が証券法上の請求における除斥期間には適用されないと判断 (17/09/20)
California Public Employees’ Retirement System v. ANZ Securities, Inc., 137 S. Ct. 2042 (2017) (“CalPERS”) において、最高裁判所は、American Pipe & Construction Co. v. Utah, 414 U.S. 538 (1974)において定立されたクラスアクションにおける“時効期間停止”の原則が、1933年証券法に定める3年間の除斥期間に適用されないとの判決により、長年の高等裁判所における意見の不一致を解決した。CalPERS判決における5対4の判決は、投資家、証券引受人、証券発行者およびその請求が除斥期間の対象となる可能性がある他の訴訟当事者にとって重要な意味を持つ。
American Pipe判決は、「クラスアクションの開始は、当該クラスの全メンバーについて、適用可能性のある時効規定の進行を停止させる。」と判示した。414 U.S. at 554。American Pipe判決における教義は、推定されるクラスメンバーに対し、彼らの主張を独自に請求するか否かを決定するため当該クラスアクションがどのように進行するか見定めるために待つというオプションを与える。そのような保護がない場合、かかる行動をとると、訴訟脱退請求が間に合わなくなるリスクがある。2000年、第10巡回区高等裁判所は、American Pipe判決は、時効期間だけではなく、1933年証券法における3年間の除斥期間にも適用される旨判示した。Joseph v. Wiles, 223 F.3d 1155, 1167-68 (10th Cir. 2000) (“Wiles”) 参照。Wiles判決の裁判所は、「ある意味では、American Pipe判決の時効期間停止の教義の適用は、時効期間停止そのものを意味するものではない」、なぜなら、原告らは、彼らの請求が既に含まれているクラスアクション訴訟について「事実上、当事者になっている」からである、と判断した。Id。
第2、第6及び第11巡回区高等裁判所はこれに反対し、3年間の除斥期間は、絶対的であり、かつ、「衡平上の時効期間停止」の原則では延長できない、議会により策定された規定であることから、American Pipe判決のルールは、証券法上の請求に対しては適用されないと判断した。Police & Fire Ret. Sys. of the City of Detroit v. IndyMac MBS, Inc., 721 F.3d 95 (2d Cir. 2013) (“IndyMac”)、Stein v. Regions Morgan Keegan Select High Income Fund, 821 F.3d 780 (6th Cir. 2016)、Dusek v. JPMorgan Chase & Co., 832 F.3d 1243 (11th Cir. 2016) 参照。第2巡回区高等裁判所は、American Pipe判決のルールが除斥期間に適用されないと再度結論付けるために、自らのIndyMac判決を、より近時の事案において適用した。In re Lehman Bros. Sec. and ERISA Litig. (California Public Employees’ Ret. Sys. v. Moody Investors Serv.), 655 Fed. Appx. 13 (2d Cir. 2016)、SRM Global Master Fund Ltd. P’ship v. Bear Stearns Cos., 829 F.3d 173 (2d Cir. 2016) 参照。CalPERS判決の原告は、本件につき裁量上告の申立てを行い、2017年1月に最高裁判所はこれを受理した。
2017年7月、ケネディ判事がCalPERS判決における多数意見を提供し、第2巡回区高等裁判所の判断を認容した。最高裁判所は、証券法における3年間の除斥期間は、議会により「被告の時間的な責任の絶対的限界」となることを意図された除斥期間であって、それゆえ、American Pipe判決を含むいかなる“時効期間停止”ルールによっても、これを延長することはできないと判示した。137 S. Ct. at 2049。最高裁判所は、「特定の期間経過後に被告に完全な保護を与える除斥期間の目的」は、原告の権利をも考慮に入れた裁判所の「衡平法上の比較衡量権限」に優先する、そして、当該判決に起因する保護申立て増加に関するいかなる懸念も、「おそらく誇張されたものである」と詳述した。Id. at 2053-54。多数意見は、当該判決は除斥期間に限定された判断であり、未だ「衡平法上の考慮により時効期間が停止される可能性はある」ことを明確に示した。
ギンスバーグ判事により起案されたCalPERS判決における反対意見は、American Pipe判決のルールは、クラスアクションの提起それ自体が「クラスの全メンバーのための手続が開始された」という事実の認識が根底にあるものだと主張した。 Id. at 2056-57。訴訟脱退することにより、推定されたクラスメンバーは、「単純に、当該訴訟に属していた手続の一部を管理することになる」から、それゆえ、当該請求が当該クラスの一部として適時に提起された期間における利益を失うべきではない。Id。これに対して多数意見は、「当該手続」の辞書的定義に焦点を当てることにより回答した。すなわち、クラスアクション請求は、訴訟脱退請求とは分離された司法手続であることから、前者の提起は、後者のための「時計を止める」ものではない。Id. at 2054-55。
証券法上の請求権を持つ投資家にとって、CalPERS判決の影響は即時に生じる。重要な請求権を保有する投資家は、もはや、彼らの訴訟脱退請求に関して進行する時計を停止するためにクラスアクションに依拠することはできず、むしろ、現在は、全ての直接手続が、募集から3年以内に提起される必要があり、そうでなければ時効期間が経過してしまうことになると予期しなければならない。CalPERS判決における少数意見によって指摘されたように、証券クラスアクションは、クラス証明の決定に至るためだけに3年以上を要することがあるため、これは重大な制限である。Id. at 2057-58。これは、クラス全体を通じた好ましい権利回復に参加したいと望んできた投資家でさえ、もはや、クラス証明が拒否又は問題ありと判断された場合には権利回復が不可能又は僅少になるリスクを負うことなく傍観の立場をとることはできなくなる。他方、証券引受人及び証券発行者は、CalPERS判決に恩恵を受ける立場にある。これらの被告は、手続のかなり初期段階において、「個々の訴訟の数と属性、提訴される可能性のある場所、使用されるであろう訴訟戦略」を決定することができ、それゆえ、「潜在的な責任を計算し又はより精緻に訴訟計画を策定する」ことができるだろう。Id. at 2053。
CalPERS判決は証券法上の請求にのみ特別に関係するものであったが、最高裁判所の一般的な論理は、American Pipe判決ルールは、特定の除斥期間「それ自体に明示的な例外を含んでいる」のでない限りは、いかなる除斥期間にも適用されることはない、ということを示唆している。Id. at 2050。以下も参照。Id. at 2050 (「除斥期間の目的に照らして、当該条項は一般的に時効期間停止の対象にはならない」)、2051 (「除斥期間は衡平法上の時効期間停止の対象にはならない」)、 2055 (「第13条の3年間の制限は除斥期間なので、衡平の名のもとで法令上の期間制限を修正しようとする裁判所の伝統的権限を置き換えるものである」)。それゆえ、除斥期間を含んでいる他の訴訟物に関する訴訟当事者は、彼らの主張や防御におけるCalPERS判決の潜在的影響を注意深く考慮する必要がある。
American Pipe判決に関するCalPERS判決における解釈は、American Pipe判決ルールの適用範囲が不確定のままとなっている他分野を検討する際においても、念頭におくことが重要になる。例えば、(全てではないとしても)ほとんどの裁判所が、American Pipe判決は、クラス原告により提起された具体的な請求原因についての時間的分析に影響を与えるだけでなく、同じ事実関係から生じる他の請求原因についても影響を与えると認識している。In re Libor-Based Financial Instruments Antitrust Litig., 2015 WL 6243526, at *147-48 (S.D.N.Y. Oct. 20, 2015) (“Libor IV”) (収集事例) 参照。その論理は、「初期のクラスアクションにおいて主張されていた同一の請求原因に関するAmerican Pipe判決における時効期間停止の制限は、不在のクラスメンバーが、クラス証明に先立って介入し、新規の法的理論を主張するために保護命令の申立てすることを奨励・要求することになり、裁判所の停滞、無駄な書類作成、費用支出を生み出すだろう。」というものである。Id。(Cullen v. Margiotta, 811 F.2d 698, 721 (2d Cir. 1987)を引用)。CalPERS判決はAmerican Pipe判決に関する全てを疑問視するためのライセンスを与えるものだと被告に解釈され得る「狭い」判決だった、との一般的な意味以外に、この適用は、CalPERS判決によって直接脅かされるようには思われない。
しかしながらその教義の使用はしばしば別の論争を引き起こす。具体的には、当事者は、クラスメンバーが連邦クラスアクションから訴訟脱退し、同一の訴訟脱退請求において州法上の主張を行おうとするとき何が起こるかにつき、しばしば争う。CalPERS判決の事実関係を使用した場合、その例は、同一の虚偽供述から発生したコモンロー上の詐欺請求についても主張することを選択した訴訟脱退原告である。このような状況が発生した場合、複数の裁判所は、次のようなアプローチを取る。すなわち、州法上の請求の適時性は州法によって判断されるので、連邦クラスアクション提起を根拠として当該請求の時効期間が“停止”すると当該関連州が判断するか否かを、裁判所において精査しなければならない、とのアプローチを取る。Libor IV, 2015 WL 6243526, at *138-47。州法はしばしば異なることが多いことから、このアプローチは、そうでなければ同様の状況に置かれていたクラスメンバーのための考慮事項の寄せ集めを生成する。そうすることの必要性に反対する主張は、Wiles判決の論理のもと、クラスアクションの提起は、全州における適時性要件を直接充足する全ての目的のための「訴訟手続」の提起を代表するものであるため、各州における「時効期間停止」へのアプローチを検討するのは間違いであった、というものである。CalPERS判決における多数意見が、「時効期間停止」の教義としてのAmerican Pipe判決の技術的見解を採用したので、代わりに、裁判所とクラスメンバーは、訴訟脱退請求が州法に基づく請求原因を含む場合にはいつでも、いわゆる「管轄横断的な時効期間停止」という疑問に引き続き取り組まざるを得ないだろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com