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第二巡回裁判所:中国法に基づく中国の製造業者の独占禁止法違反責任を排除 (17/01/20)
2016年9月30日、米国第二巡回区控訴裁判所は、In re Vitamin C Antitrust Litigation(No. 13-4791-cv)における中国のビタミンC製造業者に対する1億4700万ドルの判決について、国際礼譲を理由に、原判決を覆す判断をした。第二巡回区裁判所は、主張書面で非難されている行動は、中国法により義務付けられたものであったと記載された、中国政府により提出されたアミカス・クリエ意見書に従うべきであったと判示し、それに従い、事件につき管轄権の行使を差し控えるべきであったと判示した。原告は、大法廷にて事件を再び審議するよう、申し立てたが、この執筆時点では未だペンディングとなっている。この決定は、米国・中国双方で、(米国法の域外適用に対する中国企業の勝利として)大きな注目を集めているが、実務上重要なのは、最近の中国法政策の発展と、中国政府が政府による強制という抗弁をサポートするアミカス・クリエ意見書を提出したという、これまでなかった対応が行われたという点にあると思われる。
米国のビタミンC購入者は、シャーマン法及びクレイトン法に基づき、2001年から2005年に国際市場で販売されたビタミンCにつき価格協定と供給量制限を行ったとして、中国製造業者に対し本件訴訟を提起した。被告は、中国にある企業で、国際市場でビタミンCを販売しており、アメリカ国内には存在しない。にもかかわらず、海外での商取引がアメリカ国内又は輸入取引に「直接的で、実質的で、合理的に予見できる影響」を与える場合に、同行為に米国反トラスト法を適用することができると規定した、外国取引反トラスト改善法(the Foreign Trade Antitrust Improvements Act of 1982 (FTAIA))15 U.S.C. § 6aの規定に基づき、彼らは、米国反トラスト法上の責任の対象となった。
地裁において、中国製造業者は、中国の規制において価格協定と供給制限が求められていたとして、統治行為論、外国政府による強制の理論、及び国際礼譲の理論を主張し、請求却下を申し立てた。中華人民共和国商務部(Ministry of Commerce of the People’s Republic of China ("MOFCOM"))は、被告の立場を補強するため、アミカス・クリエ意見書を提出したが、申立てにおいて主張された行動が中国政府により強制されたか否かにつき、追加のディスカバリーが必要であることに言及しつつ、地裁は申立てを退けた。地裁は、この判断の後も、適用される規定の中国政府による解釈を不採用とし、関連する時期において「中国法は被告の反競争行為を強制していない」と判示しつつ、同様の防御方法を主張した略式判決の申立てについても退けた(810 F. Supp. 2d 522, 525-26 (E.D.N.Y. 2011))。本件は、後に陪審で争われることとなり、最終的に、被告に1億4700万ドルの支払を求める原告勝訴の判決が下された。
第二巡回区裁判所は、「地裁は、中国政府による同国の法律についての解釈を十分尊重することなく、中国法は、同国反トラスト法に違反するよう原告に求めていない旨判断したことには誤りがあった」と判示し、中華人民共和国商務部による中国法の解釈に従わなかった地裁の判断を問題視した(Slip Op. at 13-14)。そして、外国政府による自国法の解釈について尊重する際の基準につき、さらに検討した上で、控訴裁判所は、「カウンセルとして行動しているか否かを問わず、自国法令の解釈と効果について、宣誓された証拠を提出する方法により、外国政府が、米国裁判手続に直接関与した場合において、示された状況において同法令が合理的であれば、米国裁判所は、その内容に従うよう義務付けられる、という原則を再確認した」(Id. at 31)。「却下申立てと略式判決の申立てにおいて、中国法が何を求めてたか判断する際、中華人民共和国商務部が訴訟に関与していなければ、地裁による注意深い、慎重な証拠判断は、しごく適切なものであったといえる。しかし、控訴裁判所は、中国法は被告に価格協定と供給制限を求めていたとの、中華人民共和国商務部による同法の「合理的な解釈」によれば、地裁の判断は適切ではなかった」と判示した(Id. at 35 & n.10)。
このビタミンC事件判決は、アミカス・クリエ意見書を提出することにより、中国政府がアメリカの裁判手続に初めて登場した点と、第二巡回区裁判所による原審破棄がなされるまで、中国製造業者に米国反トラスト法上の責任が初めて認められたという点につき、とても大きな注目を浴びた。また、第二巡回区裁判所の判決については、問題となった行為は自国では適法と外国企業が主張できる限り、同企業は米国反トラスト法を自由に違反できることとなる、との批判を浴びることにもなった。もっとも、第二巡回区裁判所の判決は、それほど射程範囲が広いものではない。むしろ、中国の規制により強制された義務を根拠に、中国製造業者は、反トラスト法上の責任を免れることができるという、限定された判断である。
例えば、Animal Science Products, Inc. v. China National Metals & Minerals Import & Export Corp., 702 F. Supp. 2d 320 (D.N.J. 2010) において、ニュージャージーの地裁は、中国のマグネサイト輸出者に対し提起された反トラスト請求を棄却した。ビタミンC事件におけるMOFCOMのアミカス・クリエ意見書に触れつつ、裁判所は、「外国政府が本件の対象物に対する法的強制を認めた事実は、米国で「不文法」であったとしても、強く尊重(拘束に近いのがしばしば)しなければならないかもかもしれない(Id. at 426)。しかし、中国政府が指示したとされる実際の最低価格につき証拠が存在せず、被告らが、政府の指示した最低価格より高い金額で価格協定を別途行ったことを示す契約についての証拠も存在しない。そのため、国際礼譲を根拠に請求を却下することはせず、裁判所は、他の理由にて請求を棄却した(See id. at 463-65)。高裁での審理の後、事件は地裁へ差し戻され、当事者適格がないことを理由に事件は却下された。そのため、国際礼譲に関する論点は顕在化しなかった(34 F. Supp. 3d 465 (D.N.J. 2014)参照)。
さらに最近では、Resco Prods., Inc. v. Bosai Minerals Group Co., Ltd.事件(158 F. Supp. 3d 406 (W.D. Penn. 2016))において、ペンシルバニア州西地区の地裁は、中国のボーキサイト輸出者に対し提起された反トラスト請求につき、「合理的な陪審員は、輸出価格・量につきMOFCOMから指示されていたため、被告が輸出価格・量の協定を企てたと認定することはできない」と判示した上で、請求を棄却した。原告は、被告らは、別途、価格協定と供給制限を企てたと主張したが、証拠によれば、MOFCOMが指示した価格・量に影響を与える権限を原告らは有していなかった(Id. at 422)。この事件は、現在、第三巡回区裁判所に控訴されている。
ビタミンC事件とResco事件・Animal Science事件との大きな違いは、中国政府の関与にある。Resco事件・Animal Science事件の両裁判所は、裁判所にある記録は、ディスカバリーなく、国際礼譲を根拠に却下するには不十分であると決定した(外国政府が自国法の解釈を提出しない場合に「合理的である」、第二巡回区裁判所が理解を示したアプローチ)(Vitamin C, slip op. at 44 n.14.)。一方、ビタミンC事件において、中華人民共和国商務部のアミカス・クリエ意見書は、請求却下の判断を下す段階において、「中国法が何を求めているか、司法権の行使を差し控えるのに適しているか、につき決定するのに十分であった」(Id)。
外国政府の尊重に関する第二巡回区裁判所の判示は、とても強いものであるが、裁判所が普段行う分析は、Resco事件・Animal Science事件で行われたものである。そのため、第二巡回区裁判所の分析が適用となる射程は極めて狭い。まず、第二巡回区裁判所は、国際礼譲の原則は、二つの国の法律について「真の抵触」が存在する(別の言い方をすれば、「両方の国の法律に従うことが不可能(でなければならない)」)場合に限り、判断を差し控えることを要求する(Id. at 19-20)(Hartford Fire Ins. Co. v. California事件 509 U.S. 764, 799 (1993)参照)。次に、第二巡回区裁判所による国際礼譲の適用は、「外国政府が…米国裁判手続に直接参加する場合に限り」、外国政府を尊重するというものである(Id. at 30。筆者により強調加筆)。最後に、外国政府が米国裁判手続に登場し、被告の行動は、同国の法律により強制されていたと証言する極めて稀なケースで、Timberlane Lumber Co. v. Bank of Am., N.T. & S.A.事件(549 F.2d 597, 614-15 (9th Cir. 1976))とMannington 10 Mills, Inc. v. Congoleum Corp.事件(595 F.2d 1287, 1297-98 (3d Cir. 1979))で示された追加的な要素を満たした場合に限り、国際礼譲の原則は、却下判決を求める(Vitamin C, slip op. at 40-41)。この要素は、アメリカ内での関連する行動や、米国判決の執行可能性、米国の通商を害する意図や予見可能性、外交関係への影響等を含むものである。
限定されたディスカバリーにより裁判所に集められた記録によれば、却下申立ての段階で、残りの要素は、却下相当であると結論を出すのに十分であったと、第二巡回区裁判所は、判断した。しかし、同裁判所は、「全ての事案につき、却下申立ての段階で、国際礼譲を理由に管轄権の行使を差し控えることは、合理的ではないかもしれず、また、事実審には、ディスカバリーにより得られた記録につき、相反する利益やポリシーについて検討する機会が必要かもしれない」と注意を払っている(Id. at 44 n.14.)。控訴裁判所は、法律上の強制につき外国政府が証言を行ったとしても、異なる事実関係において、地裁が異なる結論に至る可能性があることについても許容している。
将来の事案において、第二巡回区裁判所の判決の適用が限定されると考える他の理由がある。問題となった行動は、10年以上前に行われている(2001-2005)。MOFCOMのアミカス・クリエ意見書によれば、中国政府によるビタミンC価格への介入は、中国の輸出者が製品を外国に輸送する際、準政府産業団体からの許可取得が求められた1990年代に始まり、問題となった時期(米国やEUによるアンチダンピング請求を避ける方法として、価格と供給の制限が課された時期)まで続いたようである。WTO加入が一つの理由でもあるが、中国の輸出政策は、それから進歩している。中国は、2008年に、価格協定や反競争的な運用を禁止する自国の反トラスト法を制定した。これらの発展は、将来の事件における中国の被告にとって、現在の中国法令では禁止されている価格協定や他の反競争的な行動につき、政府から強制されたと主張して責任を逃れることを困難にするものと思われる。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com